Jetsonの迷宮と三井電子がもたらすアリアドネの糸
- 営業A
- 2025年12月16日
- 読了時間: 7分

「Jetsonの迷宮」って知っていますか?
これはJetsonが“ダメ”という話ではなく、むしろ強力すぎるがゆえに、開発が深まるほど依存が増えて抜け出しづらくなる構造を指す言葉です。
そして実際、JetsonはエッジAIの代表格で、条件が合えば最短で成果に到達できるベスト解になり得ます。
本稿では、jetsonの特徴を押さえたうえでJetsonが最適な案件を読み取り、この "迷宮”の正しい歩き方と、「迷宮」に対するアリアドネの糸となる提案を紹介します。

Jetsonの迷宮──なぜ抜けられないのか
Jetson を使い始めた多くの技術者が必ず一度は感じるのが「抜け出せない構造」です。
AI処理・映像処理・制御まで1台で完結でき、PoC開発には最強クラスの利便性があります。
しかし、本格的に性能を出そうとすると CUDA / TensorRT の最適化が必要となり、
その内容は GPU 世代ごとに大きく変更され、Tensor Core の構造に合わせて書き直しが必要になります。
こうして技術者は Jetson の世界に深く入り込み、結果として NVIDIA エコシステムへの依存が強まります。
他社GPUや別アーキテクチャへ移ろうとした瞬間に、資産・ノウハウ・検証コストが一気に重くなる。
そのため「Jetsonを使い続けるのが合理的」という結論に戻りやすい。
ここに “迷宮” の正体があります。
ところで、ここ最近登場した CUDA Tile(cuTile Python)ですが、Python からタイルカーネルを書けるようになり、NVIDIA GPU世代をまたいだ最適化の負担を下げる方向に進んでいるように思え、一見すると迷宮からの脱出ルートに見えます。
しかし、基盤となる CUDA Tile IR が NVIDIA の仕組みである以上、「NVIDIA以外への移植性」まで一気に解決する“アリアドネの糸”にはなりません。
つまり 「NVIDIA内では楽になるが、NVIDIA外へは抜けにくい」-この構造が「迷宮」の本質です。
「便利だが抜けられない」、これこそが Jetson の迷宮です。
一社固定のリスク──コロナ禍で痛い目を見ませんでしたか?
ここで、少し“技術”ではなく“現場の現実”の話をします。
コロナ禍では、半導体・基板・コネクタ・電源・あらゆる部材で
納期長期化、供給制限、割当、突然のEOLや仕様変更が連鎖し、
「欲しい時に欲しいものが買えない」という状況が続きました。
このとき多くの現場が直面したのは、“性能が足りる/足りない”よりも先に、
「同じものを継続して確保できるか」「代替案があるか」という問題でした。
そして、1社・1アーキテクチャに依存しているほど、
・代替が効かない
・評価のやり直しが重い
・設計変更が間に合わない
・顧客への説明が苦しい
という形で、リスクが顕在化しやすいのも事実です。
もちろん、Jetsonが悪いのではありません。
むしろJetsonは強力だからこそ採用されるのですが、
“強力であるがゆえに依存が深くなる”という構造がある以上、
調達や供給の揺らぎが起きたときのダメージが大きくなりがちです。
だからこそ今、「1社固定を前提にしない設計」=設計の幅が価値になります。
もう少し幅を持たせませんか? JetsonとHailoの使い分けという選択肢
この状況を避けるためには、Jetson 一強ではなく、複数アーキテクチャを併存させる設計が有効です。
その一つの有力候補が Hailo です。
ここでのポイントは「どっちが勝ち」ではなく、
“用途と制約に応じて役割を分ける”という考え方です。
Jetson と Hailo の比較
Jetson は高性能で万能、Hailo は低消費電力・高効率で装置組込みに最適と、
それぞれ特性が大きく異なります。
用途に応じて両者を併用する構成は非常に有効です。
ここで重要なのは「重い処理はJetson、軽量〜中規模はHailo」という組み合わせが非常に現実的であることです。
特に屋外・温度変化の大きい環境・消費電力に厳しい環境では、
Jetsonは産業要件(熱設計や電力・筐体制約)で苦しくなる場面があり、
その“穴”をHailoが埋めます。
また、Hailoで書いたコードは他のGPU・SoCへ移植しやすいという大きな利点があります。
これは CUDA を中心とした Jetson の囲い込み構造とは対照的です。
Hailo はモデル最適化と推論APIが比較的標準化されており、
TensorRTのような世代依存の深い最適化が常に必須、という状況にはなりにくい。
そのため「置き換え」や「応用」が効かせやすいというメリットがあります。


Hailo + Raspberry Pi CM5 を使った PoC について
では、例えば PoC(概念実証)段階では、
Hailo と Raspberry Pi CM5 を使って “まず形にする” のはどうでしょう?
CM5 は PoC に最適なスピードと扱いやすさを持ち、
Hailo と組み合わせれば、
工場監視、人数カウント、物流ライン、農業、自動化設備など幅広い用途に“ドはまり”します。
しかし――量産段階ではラズパイには課題があります。
・長期供給が保証されない
・温度グレードが産業レベルに満たない
・4M申請や海外規格で不利
・I/O仕様が突然変更される
・製品寿命10年以上の装置に向かない
量産・産業化に向けての提案~SoC利用~
そこで次の提案としてSoC例えば NXP i.MXシリーズ SoMやSMARC 利用です。
※ここでは例としてNXPを挙げていますが、
Renesas・TI・Qualcomm・Nuvoton・その他CPUでも同様に対応可能です。
NXPは車載領域で鍛えられた実績もあり、長期供給・産業温度・セキュリティ・RTOS対応など、量産フェーズで効いてくる要件に強みがあります。
ただし、CM5 → NXP への移植は、OS・ドライバ・デバイスツリー・BSPなどが
完全に別物であり、一般企業では移植が非常に困難です
三井電子ならではの解決策
ここで弊社の技術力が真価を発揮します。
弊社は何十年も組込み開発を行ってきました。
・OS調整
・カーネル換装
・デバイスドライバ開発
・キャリアボード設計連携
・産業要件への最適化
三井電子はワンストップで対応できます。
PoC は CM5 で最速に。
量産では NXP(または他SoC)へ安全に移行。
そしてHailoのような低消費電力AIアクセラレータをうまく活かすことで、
“1社固定のリスク”を下げながら、産業用途に適した形へ育てていくことが可能になります。
この「PoC → 量産」の橋渡しを提供できるのが
三井電子の最大の価値です。
Jetsonが特に向いている代表的なケース
ここまで「Jetsonの迷宮」や、Hailo/CM5→産業SoC移行といった“設計に幅を持たせる話”をしてきましたが、これはJetsonを否定する内容ではありません。
むしろJetsonは、条件が合えば他の選択肢では代替しづらい強みを持っています。
だからこそ、Jetsonが“ぴったりハマる案件”も明確に押さえておくべきです。
① 高性能GPUが必要な処理(重いモデル/高解像度/複数カメラ)
・高解像度×複数カメラを同時に扱う
・物体検知だけでなく、追跡/属性推定/行動解析などを同時に回したい
・Transformer系など比較的重いモデルを使う
・推論だけでなく、前処理・後処理の比重が大きい
こうしたケースでは、Jetson Orin などのGPU性能とメモリ帯域が大きな武器になります。
② NVIDIAのSDK・エコシステムを前提にしたい(開発スピード最優先)
・DeepStream等、NVIDIAの既存SDKやサンプルを活かしたい
・Jetson上での開発資産が既にあり、最短で再現したい
・技術者採用や外部委託で「Jetson前提」の人材が確保しやすい
この場合、Jetsonは“実装速度”という観点で最も合理的な選択になり得ます。
③ すでにCUDA/TensorRT資産がある(移行そのものがリスク)
・既存製品や既存PoCでCUDA依存のコードが成熟している
・移植による性能劣化、検証や作り直しのコストが大きい
この場合、「無理に移管しない」判断も技術的・ビジネス的に正しいです。
重要なのは“Jetsonを続けること”ではなく、“続ける合理性があるか”です。
④ 筐体・電力・放熱に余裕があり、設置環境が比較的穏やか
・室内設置
・安定した電源供給が可能
・ファン搭載や放熱設計の自由度が高い
こうした条件では、Jetsonの万能性がそのまま価値になります。
あらゆる選択肢を持ち、最適解を選ぶ
Jetson と Hailo/産業SoCは、勝ち負けの関係ではありません。
用途・制約・製品寿命・量産要件・開発資産に応じて、
“最適解を選び分ける”ことが、いま現場で一番求められている姿勢です。
私たちは、特定のプラットフォームを無理に押し付けるのではなく、
Jetsonがベストな案件ではJetsonを、
低消費電力や量産・産業化が重要な案件ではHailo+産業SoCを、
そしてPoCから量産への移行が難しい場面では低レイヤの技術力で橋渡しを行う。
そうした「現実的に失敗しない設計」を支援したいと考えています。

最後に
三井電子はボード開発のありとあらゆるノウハウがあります。
そして、Jetson、SoM、SMARCはたまたDMSによるキャリアボード設計など全てを
主力レベルとして展開するアドバンテック社とプレミアムチャネルパートナーでもあります。
つまり、三井電子にご相談いただければ複数の選択肢を理解した上で、
“最も条件に合う最適解”を提案することが可能です。
そして、それこそが、これからのエッジAI導入を検討されているお客様求めるものではないでしょうか。
「PoCは早く、量産は堅く」
その橋渡しからご相談まで、まずはお気軽にお声がけください。
